血風(けっぷう)を纏(まと)いし戦人(いくさびと)

第壱夜 『佐助』


・・・むせぶ様な血の臭い。
夥しい数の死体。
倒れている死体の中に一人、立った生きた人間が一人。
全身に、人間の血を浴びた少年が一人、死体の中に立っていた。
少年の手には、この死体を作り出したのは自分だ、と言うことを証明するように、血がべっとりとついた暗器が握られていた。

少年の名は佐助。

今まさに、真田十勇士の中でも特に名高い“猿飛”の名を継ぐ最後の試練を終えたところだった。
「・・・齢15にしてこの戦闘能力。すばらしい・・・!猿飛の名は安泰だな」
年齢がいくつとも分からない老人‐‐佐助の祖父がどこからとも分からない場所から現れ、そう言った。




猿飛の名は現在佐助の祖父が有しており、次は佐助の父が受け継ぐはずだった。
しかし、佐助の父は戦争を嫌い、戦忍であることを嫌い、そして、里を嫌ってきた。
父は里から何度も逃げ出そうとしたが、その度に里の忍たちに阻まれ、失敗していた。
「猿飛の名を絶やすわけにはいかないのだ」
祖父は父が逃げ出すたびにそう言って、父を諭した。
しかし、とうとう父は里からの脱出に成功する。
自分の子供を盾に取ったのだ。
・・・度重なる里からの脱走により、佐助の父は軟禁状態にあった。
父は、自分を世話する女を犯した。
そして、佐助が生まれた。
女は佐助を生んだあと、死んだ。
もともと体が子供を生むことができるほど強くなかったのだ。
里の者たちは、長の息子がやったことだから、と父のしたことを咎めなかった。
しかし、確実に溝はできていた。
・・・自分の子供を一目でいいから見てみたい。
そう佐助の父は願い出た。
子供が生まれ、この里に落ち着く気になった、そう誰もが思った。
だから、父の願いを祖父は受け入れ、佐助と父が会うことを許したのだ。
・・・しかし、父は諦めてなかったのだ。
そして、佐助と自らを人質にし、里から逃げ出したのだ。
「佐助も俺も、捕まればそこで死ぬ。俺が里を出られなければ、猿飛の名は永遠に途絶える・・・!」
祖父にはもう子を成す能力は無かったので、父と佐助の死は、猿飛の名の滅亡を意味していたので誰も手を出すことは出来なかった。
里の追っ手から逃れた父は、佐助を捨てた。
「お前はただの道具だ。俺が里を逃げ出すための・・・、猿飛の名を絶やさないようにするための、な」
そう言って、父は狂気をはらんだ笑みで佐助を捨てた。
そして、いずこかへ消えていった。
しばらくしてから、泣き叫ぶ佐助の声を頼りにやってきた、祖父達に佐助は助けだされ、猿飛の名を継ぐに相応しい教育が施された。
・・・父の失敗から、必要以上に厳しく・・・。
「父のような愚かなこと、俺は絶対にしませんよ。」
過去のことを思い返していた祖父に、そう言って佐助は祖父に笑いかけた。
15の少年が持つはずもない、狂気をはらんだ笑みを・・・。
それは紛れもなく、父と同じ笑みであった・・・・。