血風(けっぷう)を纏(まと)いし戦人(いくさびと)

第弐夜 『任務』


「お前に任務を与える。真田家の次男坊、弁丸の護衛だ。」
佐助の祖父は開口一番にそう言った。

15の夏、猿飛の名を継ぐための試練があった。
血と狂気にまみれながら、佐助はその試練を易々とこなしていった。
ただ祖父の期待に応えるよう、父のようにならぬよう・・・。

16の春、元服の儀を行い、その時に猿飛の名を継いだ。
血と狂気とほんの少しの安堵共に、佐助は猿飛佐助という一人の大人になった。

16の冬、佐助は祖父に呼び出された。
形式的には、猿飛の名は佐助が継ぎ、里の最高権力者となったのであるが、実際には佐助にはまだ早いということで、祖父が里を仕切っていた
。 佐助も祖父に従い、「猿飛」としての任務をいくつかこなしていた。
今度もそんな任務のひとつだと、そう思っていた。
しかし・・・・。

「護衛・・・ですか?」
「そうだ。」
「しかしっ、護衛ぐらいならば他の者でも十分なのではないのでしょうか?わざわざ俺が出向くことも・・・。」
戸惑う佐助に祖父は語気を荒げ、
「戦国の世の今、護衛ぐらい、だと?お前は意味が分かってそれを言っておるのか?何時、どんなときでも命を狙われる、それを全て守ることがいかほどに難しいことであるかが分かっておるのか?」 と詰め寄った。
「・・・もうしわけ・・・ございません・・・。」
「良いか、今は親兄弟であっても命を取り合う時代。ほんの少しの油断から命が奪われる。戦場でなくとも、だ。自らの館の中で命を奪われた者も大勢居る。それを、護衛ぐらい、などと・・・。」
「・・・。」
「まあよい。とにかくこの任務をお前に与える。猿飛の名を汚さぬよう、心してとりかかれ。」
「御意・・・。」