紅林檎


紅い・・・紅いその熟れた林檎。
ああ、なんて・・・なんて旨そうなんだ。

不意にそんな思いが俺の中によぎる。
しかし、ここは戦場。
そうーここは戦場なのだ。一瞬で全てを失う場所。
旨そうな林檎などと考える場ではないのだ。

しかし‐‐‐。

俺は目の前の林檎から目をそらすことはできなかった。

紅い紅い熟れた林檎。
戦場で一番紅い林檎。
紅く艶めき、今が食べごろだと誘うような林檎。

ああ‐‐‐。
食べてしまいたい。
戦場などもうどうでもいい。
死んでしまってもかまわない。
あの紅い林檎を食べてしまいたい。


「佐助、どうかしたのか?」
不意に林檎が話しかけてきた。
「いやなんでもないですよ。さっ、とっととこんな戦、終わらせちゃいましょうぜ。旦那。」
「ああ。そうでござるな。」


紅い紅い林檎。
俺の紅い林檎。
触れることのできない林檎。

いつかはきっと‐‐‐。


END